かめすくい(小説)

 

 

お祭りで亀をすくった。

鮮やかな緑色。
色とりどりのプラスチック製のお盆が浮かぶ水面にモナカのようなものを差し込んだ。
亀たちは、油がうっすら浮いた水の中でお互いの体をただの陸地のようにしてそこから這いあがろうと足掻いている。
的屋のおじさんにおまけしてもらうような形で亀を一匹手に入れた。
親にねだり水槽を用意し、家の一角に住まわせた。
毎日エサをやったり、掃除をしたり、時々絵に描いたりして可愛がった。
小さな鼻から漏れた息がガラスを曇らせる。
短い手足で引きずって重々しい甲羅が音を立てる。毎夜それを聞きながら眠りに落ちた。

 

 

出かけ先のキャンプ場で美しい川を見た帰り道、近所の汚れた川で黒い亀を見かけた。

ゴミや木の葉の間から顔を出す。

亀は美しい川を知っているのだろうか。それでもあの汚れた川を選ぶだろうか。

 

 

ある夕、私は亀が水槽にいないことに気づく。
家の中のあらゆる場所や近所を探し回ったが見つからなかった。

餌で誘き寄せたり、意味もないであろう声をかけながら探したがもう亀は現れなかった。

 

夜は聞こえなくなった音を探して目を閉じる。
綺麗な川辺にたどり着いて恋に落ちたりして、子供といる亀の姿が浮かんだ。

 

 

一ヶ月ほどたった頃、自転車で少し遠い図書館に向かっていた。
宿題で調べ物があったからである。
田の横を走っていた時、何かゴミのようなものを目の端で捉えた。

瞬間的にそれが何か想像がついた。
しばらくいったところで自転車を止めて引き返した。
干からびた亀の死骸。

亀裂の入った甲羅から干からびて細いがそれらしき胴体がのびている。
車に轢かれたのだろうか。

いや、あれはもう少し大きかった。
もう少し緑だった。

そんなことを思いながら図書館の道を走った。

 

それ以降、亀の記憶は曖昧で、思い出してはその言葉を自分で反芻する。

亀にとってこちらは岩場や壁と同じだっただろう。

目を思い出せなかった。

亀は言葉だけになった。